Sabidi サバディ
シチリアのモディカという町に、前々から訪ねたいと思っていたお菓子屋さんがありまして、昨春シチリアに行った際アリアンナ・オッキピンティに話をしたところ、「彼女なら仲のいい友達よ。私が連れてってあげる。」ということになり、念願の訪問が叶ったわけですが、「ヒサトがチョコレートに興味を持っているっていうのなら、もう1人紹介したい人がいるんだけど。」とアリアンナ。そりゃ行くでしょ!ということで、こちらも訪問したわけですが、これがまたすごい人物でした…。
金融界で働いていたヴェネト出身のシモーネ・サバイーニは、経済的な成功は収めていた反面、自身の人生が物凄く空虚な事に気付き、2008年に仕事を辞し、ヴェローナにあるフェアトレードの会社で働き始めます。仕事で南米やフィリピンなどのカカオや砂糖の産地を訪れるうちに、自然と自然に寄り添った農業のありかた、そのような農業に携わる人々、そしてチョコレートそのものに魅了されるようになり、自らチョコレート生産を手掛ける決意をします。そしてシチリアはモディカへと移住し、まずはとあるチョコレートメーカーで働き、2011年に自身の会社サバディを立ち上げます。
モディカは、昔ながらの製法で作られる(チョコに)溶けずに残った砂糖のショリショリ感が特徴のチョコレートを作るお菓子屋さんが多くあることで有名な町で、シモーネもいわゆるモディカ風のチョコを作ろうと考えたのですが、一点だけ伝統的製法にはない考えを持ち込みます。
コンチングやテンパリングなどの、チョコレートの粒子を滑らかにして口溶けを良くしたり、艶やかな見かけを実現するための作業工程は現代のチョコレート製造では必須の工程となっていますが、カカオに含まれるカカオバターの結晶を安定化させるという効果もあります。一般的なモディカのチョコレートは、コンチング&テンパリングが開発される以前の製法で作られるため、時間の経過とともに白い粉(ブルーム)が表面に浮き出る事があります。これは、不安定な結晶だったカカオバターの一部が溶け出した事を意味し、それ自体がモディカのチョコの特徴だと認識されていたのですが、カカオバターがカカオ独特の香味成分をチョコの中に封じ込める役割も果たしていることもあり、シモーネはモディカチョコのブルームを欠点と断じています。生産されてから短期間のうちに消費される地場消費がメインであったのならそれでも良かったのかもしれませんが、今やモディカのチョコは世界中に輸出されている…。シモーネは彼のチョコの製造工程にテンパリングを導入、それにより極端な温度環境の場所に置かない限りブルームが生じない、つまり長い賞味期限が約束されたチョコレートが完成します。
そして素材へのこだわりも尋常ではありません!カカオは、エクアドル産の原生種に極めて近いと言われているナシオナル種(アッリーバ)の最高品質ASSSグレードのもので、自然環境との共生を図った有機農業実践し、フェアトレードで輸入されたもの。砂糖は、フィリピンないしパラグアイ産の有機栽培のサトウキビ由来のもの3種とココナツシュガー1種類を使用。風味付けに使用されるスパイス類も全てフェアトレードで輸入された有機栽培のもので、柑橘の皮も当然のことながら全て無農薬の柑橘が使用され、収穫当日に皮をむき、極低温で乾燥させたものという徹底ぶり。多くの原材料がスローフードのプレシディオ指定も受けている稀少なものだったりもします…。チョコと同様のコンセプトで作られたキャンディも素敵です!有機栽培の砂糖、シチリア固有のミツバチが集めた柑橘の花のハチミツと無農薬で栽培されたスパイス、ハーブ、柑橘のエッセンシャルオイルだけで作られています。
訪問した際、ズッケリシリーズを試食させてもらっていた時、頭にふいに浮かんだ言葉、「カカオも砂糖も、土(大地)から生まれているんだなぁ…」をボソッと口にしたところ、シモーネの目がキラーン。この一言だけで、お互いを分かり合えたような気がして凄い嬉しかったのですが、この紹介文を作成するために彼のHPを見ていたところ、とある一文を発見しました。我々は、チョコレートを大地からもたらされる産物であると捉えている。であるから、我々は一切の油脂(カカオバターも含む)も香料もありとあらゆる添加物を使用しない。使うものはといえば、カカオマス、砂糖、天然のスパイス(ハーブ)、柑橘の皮のみ(ホットチョコレートには、乳化剤として大豆レシチンが使用されています。)
ワインでも、ハムでも、チョコでも、見ている方向が一緒の人達というのは、容易にお互いのことを認め合えるものなのだなぁと改めて思わされました。(輸入元資料より)